しばらくすると顔を上げて、もう一度にっと笑顔を見せる紅里。

 服の袖で涙を拭き、今度はさっぱりしたような口調で言う。


「で、本当のところ、あんたたちの仲はどうなってんの?」

「へ?」

「さっきのは冗談よ。この間たまたま見ちゃったけどさ、あんたたちめちゃくちゃ仲良くなってるじゃない。割り込む隙、ないわよ」

「あ、あ、あわわ……」


 見ちゃった、とはどのことを言ってるのだろうか。

 まさかキスしちゃったところとか?

 いや、どんなときかまったくわからない。でも、そう見えてしまったのならどうしようもなかった。


「動揺しすぎ。まあ、取って食やしないから、この紅里さんに洗いざらい話してみなさい?」

「は、はい……」


 わたしはそうして今までのなりゆきを紅里に話した。

 お互いに好意を伝え合っているけれど、まだ再開してそんなに経っていないのでなんとなく付き合うのは保留にしていること。それでもいろいろなことが重なって、距離がどんどん近くなってしまってること。そして……。


「あーもう、わかった。お腹いっぱいです。てかそんな状態ならもう付き合っちゃえよ……」

「い、いや! そんなこと……まだ心の準備が……」

「んなこと言って。あたしじゃなくても開店したらお客にちょっかいかけられるかもしれないんだぞ? そんな悠長にかまえてて、いーのかなー?」

「そ、それは……」


 わたしはすとんとまたベンチに座ると、大きなため息をついた。


「はあ。だって……青司くん相変わらずかっこ良すぎて……しかもすごい画家さんになってるし……釣り合わないんじゃないかって思っちゃったんだもん」

「はあ?」

「お店が成功するように、全力で頑張ろうと思うよ? でも、もし恋人になったら……すごく迷惑かけちゃったりして面倒くさい存在になっちゃわないかなって……」

「そんなの、青司くんが判断することじゃん」

「そうなんだけど……」


 もう一度ため息をつくと、「ヨシ!」という元気なかけ声が突然横から聞こえてきた。

 見ると紅里が立ち上がっている。


「え? 紅里?」

「やっぱさっきの冗談ってのナシ! さっそくあたし青司くんに告白しに行こーっと」

「ええっ?」

「なに? さっき遠慮するなって言ったじゃん」

「そ、そうだけど……」

「じゃあ問題ないよね」


 てくてくと紅里は歩き出し、少し離れたところに停めてあった自転車にまたがった。