「あたし、青司くんが帰ってきたって知って、何度か見に行ったんだ。でも……そこにはすでに真白がいた。真白と仲良さそうにしている青司くんも……。あたしはそれを見て、いままでの生き方を初めて後悔した。自分の心に嘘をついていたって気づいたんだ。でも後悔するなんて資格、あたしにはない。全部自分で選んだことだから……」

「紅里」

「真白、ごめんね。醜いでしょ? 嘘ばっかりで……。こんなんで親友だなんて、笑っちゃうよね。親友失格だよ。いいよ、笑っても……。笑われた方がいっそすっきりする」


 わたしはそう言ってうつむいている紅里の頬を、気付いたらはたいていた。

 ビクッとして顔を上げる紅里。


「ま、真白……?」

「ごめん。でも、そんな……そんなふうに言わないで。親友失格だなんて。誰だって、話したくない思いはあるよ。わたしだって……わたしだって紅里に黙ってることあるもん。黄太郎のこと、とか……」

「え? 黄太郎?」

「そう」


 わたしは紅里に、かつて黄太郎と付き合っていたことを明かした。

 たった一週間だったけれど。

 それでも、まったくその件を話したことがなかったので紅里は驚いていた。


「ああそう。そうだったんだ……あー、たしかに一時期、あんたたちが変な空気だったときあったもんねえ」

「そう、それ。たぶんそれ別れたばっかりのときだったと思う……」

「そっかあ。うん、別にどうでもいいよ。だって何にもなかったんでしょ」

「うん……。てか紅里、怒らないの?」

「え。何が?」

「だって……ずっと内緒っていうか、話したことなかったから……」

「そんな、怒らないよー。そんなら真白こそ。あたしのこと、怒らないの? あんたの大事な人を、あたしもずっと好きだったんだよ?」


 紅里はそう言いつつ、とても不安そうな顔をしていた。

 わたしは真面目な顔で言う。


「怒らないよ。むしろ……わたしが無神経だった。ごめん。なんにも知らなくて……わたしばっかり、好き好き言ってたよね。だから……紅里は余計言えなかったんじゃないの?」

「あー、まあね。でも、あの時はあれで良かったんだよ。自分と真白は違うんだってそう思えて、最終的には自分に発破かけられたんだから。真白には悪かったけど……わたしは恋愛以外でもどうしてもやりたいことがあったからさ」

「そう。それなんだよね。わたしにはそれが、すごくうらやましかった……」

「実際夢は叶えられたけどね。でも、結局最後は失敗しちゃった」

「失敗、なんかじゃないよ」

「え?」


 きょとんとする紅里に、わたしは静かにそう告げる。


「失敗なんかじゃない」