「なっ! ちょ、ちょっと青司くん!? なんで今、それ持ってくるの……」
「いいじゃないか。俺、これ本当に嬉しかったんだ。描けなくなったって言ってたのに……真白がためらいながらも俺を、描いてくれたんだから。全然下手なんかじゃないよ。最高だよ」
「そんな……」
恥ずかしくって、もう目の前の人の顔がまともに見られない。
「ホントやめて。青司くん、それ、まだ完成させてないし……あんまり見てほしくないんだけど……」
わたしが顔を熱くしてなおもそう言うと、青司くんはハッとなった。
「あ。そうか」
「え?」
「いや、真白が……苦手だと思っていてもこうして『俺の絵』を描いてもらえたんなら……。俺だって、『真白の絵』を描こうとしたら……」
「せ、青司くん?」
「そうだ。『真白の絵』を描こう!」
「えええっ?」
青司くんは拳をにぎりしめると、また納戸に行ってしまった。
今度持ってきたのは、水彩紙のブロック、鉛筆、パレット、筆、水入れ、タオル、そして水彩絵の具などの画材一式だ。
それらを、新聞紙をしいたテーブルの上に並べていく。
「そうだ。俺の興味の沸くモチーフなら……」
そして筆をとると、息つく間もなくわたしの絵を描きはじめる。
「や、やめて……!」
わたしは自分の顔がだんだんと紙の上に表現されてくると、無性に恥ずかしくなってきた。
耐えきれなくなって、ついに店を飛び出す。
胸には自分の描いた「青司くんの肖像画」を抱えていた。だってこれをあそこに置いたままにはできない。
「わっ……!」
玄関を開けるとすぐ外に業者の人がいた。
危うくぶつかりそうになって頭を下げる。
「す、すみません!」
「え? ああ……おはようございます」
たしか今日はケーキを冷蔵するショーケースが届く手筈になっていたはずだ。
業者の人たちはびっくりした様子だったが、わたしはかまわず逃げ出した。
絵を描くことに集中していた青司くんがようやく気付いたのか、背後から「真白!」と叫ぶ声がする。
でも、たぶん追いかけてはこないだろう。
業者の人に対応しなきゃならないからだ。
ごめんね、青司くん。
家に帰るとわたしは自室に駆け込み、もう一度自分の描いた絵をじっくりと見直した。
「全然、だめだ……」
本気で描いてないってすぐわかる。
デッサンも微妙に狂ってるし、なにより青司くんの良さが全く表現しきれていない。
「青司くんがわたしをちゃんと描こうとしたんだ……わたしも、それに応えられるようにしないと……」
わたしは押入れを開けると、奥の方にしまっていた段ボールを引っ張り出した。
そこには十年前に封印したものが全て放り込まれている。
「まずは下書きだけでもちゃんとやり直さないとね……」
箱の中から鉛筆を探し出し、わたしは自分の机に向かう。
記憶の中の、青司くんの姿を思い浮かべた。昔の青司くんではなく、今の青司くんを。
そして、一心不乱に鉛筆を走らせた。
「いいじゃないか。俺、これ本当に嬉しかったんだ。描けなくなったって言ってたのに……真白がためらいながらも俺を、描いてくれたんだから。全然下手なんかじゃないよ。最高だよ」
「そんな……」
恥ずかしくって、もう目の前の人の顔がまともに見られない。
「ホントやめて。青司くん、それ、まだ完成させてないし……あんまり見てほしくないんだけど……」
わたしが顔を熱くしてなおもそう言うと、青司くんはハッとなった。
「あ。そうか」
「え?」
「いや、真白が……苦手だと思っていてもこうして『俺の絵』を描いてもらえたんなら……。俺だって、『真白の絵』を描こうとしたら……」
「せ、青司くん?」
「そうだ。『真白の絵』を描こう!」
「えええっ?」
青司くんは拳をにぎりしめると、また納戸に行ってしまった。
今度持ってきたのは、水彩紙のブロック、鉛筆、パレット、筆、水入れ、タオル、そして水彩絵の具などの画材一式だ。
それらを、新聞紙をしいたテーブルの上に並べていく。
「そうだ。俺の興味の沸くモチーフなら……」
そして筆をとると、息つく間もなくわたしの絵を描きはじめる。
「や、やめて……!」
わたしは自分の顔がだんだんと紙の上に表現されてくると、無性に恥ずかしくなってきた。
耐えきれなくなって、ついに店を飛び出す。
胸には自分の描いた「青司くんの肖像画」を抱えていた。だってこれをあそこに置いたままにはできない。
「わっ……!」
玄関を開けるとすぐ外に業者の人がいた。
危うくぶつかりそうになって頭を下げる。
「す、すみません!」
「え? ああ……おはようございます」
たしか今日はケーキを冷蔵するショーケースが届く手筈になっていたはずだ。
業者の人たちはびっくりした様子だったが、わたしはかまわず逃げ出した。
絵を描くことに集中していた青司くんがようやく気付いたのか、背後から「真白!」と叫ぶ声がする。
でも、たぶん追いかけてはこないだろう。
業者の人に対応しなきゃならないからだ。
ごめんね、青司くん。
家に帰るとわたしは自室に駆け込み、もう一度自分の描いた絵をじっくりと見直した。
「全然、だめだ……」
本気で描いてないってすぐわかる。
デッサンも微妙に狂ってるし、なにより青司くんの良さが全く表現しきれていない。
「青司くんがわたしをちゃんと描こうとしたんだ……わたしも、それに応えられるようにしないと……」
わたしは押入れを開けると、奥の方にしまっていた段ボールを引っ張り出した。
そこには十年前に封印したものが全て放り込まれている。
「まずは下書きだけでもちゃんとやり直さないとね……」
箱の中から鉛筆を探し出し、わたしは自分の机に向かう。
記憶の中の、青司くんの姿を思い浮かべた。昔の青司くんではなく、今の青司くんを。
そして、一心不乱に鉛筆を走らせた。