黄太郎は椅子から立ち上がると、フッと笑った。
「ああ。わかった。でも、もう一度真白を泣かせるようなことをしたら……今度こそ、その綺麗な顔がぐちゃぐちゃになるくらい殴ってやるからな。憶えとけよ」
「うん。そう、ならないようにする……」
ははは、と若干引き気味で笑いながら、青司くんがそう答える。
黄太郎はそのまますぐに店を出て行こうとした。
「あ、黄太郎。帰るの?」
「ああ……」
呼びとめると、黄太郎は玄関横の桃花先生の肖像画の前で立ち止まる。
「お、送ってくよ。車で連れてきたし……」
「それはいい。歩いて帰る」
青司くんも慌てて立ち上がるが、黄太郎はにべもなく断った。
そして、大きく息を吐くと、
「青司。真白だけじゃなく、この店に来た客も幸せにしたい、って言ったな」
「あ、うん……」
「桃花先生みたいにか」
「そう……だね」
「そうか。なら、それができるようになるといいな」
「……黄太郎」
わたしは思わずそうつぶやいた。
あの黄太郎が、青司くんにそんなことを言ってるなんて。
背中を向けたままの黄太郎は今どんな表情をしているかわからない。でも、わたしはありがたいと思った。そして、こんな素晴らしい人が元カレで、そして今は友でいて良かったと思った。
「じゃあな」
そう言って、黄太郎は去って行った。
残されたわたしたちは何気なく見つめ合う。
「真白……」
青司くんの真剣な瞳を見つめる。
先ほど言っていた言葉。
強くなって幸せにしたいという言葉を思い出す。
「さっき黄太郎に……言った通りだ。俺は真白と、ここでもう一度やり直したい。真白も、その間俺をもう一度知っていってほしい。そして……この町でうまくやっていけるようになったら……その……」
じっと熱く見つめ続けられると、どきどきして倒れそうになる。
だめ、だめだ。
これ以上こうしてたら、またキス……されたくなっちゃう。
「ただいまー! ってあれ?」
その時、紫織さんと学さん、菫ちゃんの親子が戻ってきた。
わたしたちはあわてて居住まいを正す。
「あれあれ~? お邪魔だったかしら~?」
「な、なにがですか?」
紫織さんは意地悪そうな微笑みを浮かべてわたしに近寄ってくる。
旦那さんの学さんはすいませんと申し訳なさそうな笑みを浮かべて、菫ちゃんの目を両手で覆っていた。
わたしは恥ずかしくて死にたくなった。
「そんな隠さなくたっていーわよ」
「な、なにも、隠してないです!」
「え~? 別に~? かまわないけど~。でも菫の前ではあんまりそういうことやめてよね」
「だから、なにもないですって!」
青司くんはと振り返ってみると、いつの間にか空気と化していて、わたしたちの使い終わった食器を洗っていた。
ほんとこういう要領のいいところ、すごく青司くんらしいと思う。
その後、菫ちゃんがテーブル席でお絵かきしたり、かつての昔話に花を咲かせたりした。
このときも、外から店の中を覗いていた人がいたようなのだが、そのことにわたしはまったく気が付いていなかった。
「ああ。わかった。でも、もう一度真白を泣かせるようなことをしたら……今度こそ、その綺麗な顔がぐちゃぐちゃになるくらい殴ってやるからな。憶えとけよ」
「うん。そう、ならないようにする……」
ははは、と若干引き気味で笑いながら、青司くんがそう答える。
黄太郎はそのまますぐに店を出て行こうとした。
「あ、黄太郎。帰るの?」
「ああ……」
呼びとめると、黄太郎は玄関横の桃花先生の肖像画の前で立ち止まる。
「お、送ってくよ。車で連れてきたし……」
「それはいい。歩いて帰る」
青司くんも慌てて立ち上がるが、黄太郎はにべもなく断った。
そして、大きく息を吐くと、
「青司。真白だけじゃなく、この店に来た客も幸せにしたい、って言ったな」
「あ、うん……」
「桃花先生みたいにか」
「そう……だね」
「そうか。なら、それができるようになるといいな」
「……黄太郎」
わたしは思わずそうつぶやいた。
あの黄太郎が、青司くんにそんなことを言ってるなんて。
背中を向けたままの黄太郎は今どんな表情をしているかわからない。でも、わたしはありがたいと思った。そして、こんな素晴らしい人が元カレで、そして今は友でいて良かったと思った。
「じゃあな」
そう言って、黄太郎は去って行った。
残されたわたしたちは何気なく見つめ合う。
「真白……」
青司くんの真剣な瞳を見つめる。
先ほど言っていた言葉。
強くなって幸せにしたいという言葉を思い出す。
「さっき黄太郎に……言った通りだ。俺は真白と、ここでもう一度やり直したい。真白も、その間俺をもう一度知っていってほしい。そして……この町でうまくやっていけるようになったら……その……」
じっと熱く見つめ続けられると、どきどきして倒れそうになる。
だめ、だめだ。
これ以上こうしてたら、またキス……されたくなっちゃう。
「ただいまー! ってあれ?」
その時、紫織さんと学さん、菫ちゃんの親子が戻ってきた。
わたしたちはあわてて居住まいを正す。
「あれあれ~? お邪魔だったかしら~?」
「な、なにがですか?」
紫織さんは意地悪そうな微笑みを浮かべてわたしに近寄ってくる。
旦那さんの学さんはすいませんと申し訳なさそうな笑みを浮かべて、菫ちゃんの目を両手で覆っていた。
わたしは恥ずかしくて死にたくなった。
「そんな隠さなくたっていーわよ」
「な、なにも、隠してないです!」
「え~? 別に~? かまわないけど~。でも菫の前ではあんまりそういうことやめてよね」
「だから、なにもないですって!」
青司くんはと振り返ってみると、いつの間にか空気と化していて、わたしたちの使い終わった食器を洗っていた。
ほんとこういう要領のいいところ、すごく青司くんらしいと思う。
その後、菫ちゃんがテーブル席でお絵かきしたり、かつての昔話に花を咲かせたりした。
このときも、外から店の中を覗いていた人がいたようなのだが、そのことにわたしはまったく気が付いていなかった。