「ぷっ。あはははっ! おいおい、マジでどんだけ独占欲強いんだお前は。こんなの意識してんのお前だけだぞ」

「……」


 無言で黄太郎のお皿を引き上げた青司くんは、カレー部分を黙々と自分の皿に移し替えていく。


「真白と料理をシェア、なんて……間接キスにもなりゃしねえよ。あーもう、ほんとなんなんだお前は」


 呆れた様子でまたカレーの皿を受け取る黄太郎。

 今度は青司くんがぶすっとした表情になった。


「いいじゃないか。そんなこと言うとまたカレー戻すぞ、キタロウ」

「あっ」

「……」


 わたしはとっさに出たその呼び名に思わず声をあげてしまった。

 黄太郎もハッとして青司くんを見る。


「キタロウ……? お前、その呼び方やめろっつっただろ!」

「悪い。つい……」

「つい、じゃねーよ! てかカレーを俺に喰わせる時点で最初から嫌がらせだろ、コレ!」

「違う。これはほんとたまたま……っていうか最初からランチメニューの一品で考えてて……」

「却下だ却下! 俺もここに通うことを想定して、うどんとかにしろ!」

「うどん!? 定食屋じゃないんだぞ。喫茶店だぞ?」

「いいじゃねーか。喫茶店でうどん。俺は好きだぞ。特にきつねうどんがな。逆に珍しくて客がわんさと来るんじゃねーか?」

「いやあ、無いね」

「は?」

「無いよ。百歩譲ってBLTサンドとかだよ」

「じゃあもうそれでいい。そのサンドイッチを作れ。今から!」

「え、今から? 材料が無いよ」

「じゃあさっきのスーパー行って買ってこい。その間俺はここで久しぶりの真白と楽しくおしゃべりしてるからな」

「そんな……ふたりきりになんかさせるかよ。黙ってそのキーマカレーを食べてろ」

「フンッ、わーったよ。じゃあ辛いけど食べてやるよ。辛いけど……味だけはまずくないからな」

「はっ、そりゃあよかった」


 同時に、ふんっとお互いそっぽを向く。

 その言葉の掛け合いに、しばし唖然としていたわたしは、急におかしさがこみあげてきてくすくすと笑ってしまった。


「ふふふっ。あはははっ……! ほんと、二人ともあの頃みたい。いっつもこうやってふざけ合ってて……ああ、おかしい」


 笑いすぎて涙が出てくる。

 青司くんも黄太郎も、そんなわたしを見てなんだか急に気が抜けてしまったらしい。

 二人ともだんだん苦笑いをしはじめた。


「フフッ、青司よう。なんだかんだ言ったが……こうやって真白がいつも笑っててほしいんだ、俺は」

「うん。それは、俺もだな」

「青司。これからお前は真白と一緒にいる時間が多くなるだろうから言っておく。いつも、そういう風に笑わせてやっててくれ。絶対、泣かせたりしないでくれ」

「ああ。もう傷付けたり、悲しい思いはさせない。絶対に。約束する……」

「そうか」

「ああ」


 黄太郎は満足そうに笑うと、もう一度残りのカレーを食べはじめた。

 わたしも無言のままカレーを食べる。
 いろんなものが混じりあったカレーは、まるでわたしたちの心の中のようだった。

 辛いだけでなく、いろんなもののうまみや甘さが足されて、複雑な味になる。

 そうして、ひとつの料理として完成する。


 わたしたちもこうでありたい。

 いろんな思いが交錯しているけど、じっくりと話して、話し合って、わかり合っていけたらいいなと思ってる。