「だって、母さんすら守れていないのに……まだなんにも成長できていないのに……真白のことだって幸せになんかできっこないって、そう思ってたんだ。だから一人前になるまでは……知らないふりをしていようって思ってた。俺の真白に対する思いも、真白の俺に対する思いも……全部、気付かないふりをしてた……」
黄太郎がそれを聞いて、わたしをじっと見つめてくる。
「今度はお前に訊いてやろうか、真白。今の話を聞いてどう思った? それは、長い間お前を傷つけていた正当な理由になるか? 俺がフラれる原因になった理由としても、すんなり納得できるものかよ?」
「それは……」
わたしは自分自身のことも、黄太郎のことも考えて慎重に言葉を選んだ。
「ずっとそんな思いを青司くんが抱えていたなんて……わたしは知らなかったから……。なんにも知らないまま、ただのほほんと片思いし続けていただけだから……何とも言えないよ。でも、黄太郎は……黄太郎はそれを知ってて、なんでわたしに……。どうして教えてくれなかったの!?」
「言えるかよ……」
吐き捨てるように言って、黄太郎はそっぽを向いた。
「俺だって、真白のことばかり考えてたんだ。好きなやつがいるやつを好きになった時点で、難しい戦いになることはわかってた。だから、青司が動かないでいることを、いつも助かったって思い続けてたんだよ……! 悪いか!」
「黄太郎……」
青司くんが申し訳なさそうな顔をしてわたしと黄太郎を見ている。
「そういう状態が大人になるまで続くと思ってた。でも……母さんが急に死んでしまって……俺も引っ越さなくちゃならなくなって……。真白にこの気持ちを伝えようと思ったけど……でも、俺はまだやっぱり一人前じゃなくて……だから……伝えられなかった。ほんと、ヘタレだよ」
そう言って、力なく笑う。
黄太郎はまだ憮然としたままだ。
こんな青司くんのことはまだ認められないという思いが態度にありありと出ている。
「俺は……母さんのことも、真白のことも、ちゃんと胸を張って幸せにできるような大人に……強い人間になりたかった。十年前はここでそれができなかった。でも、今は図らずも海外で一人前になって、またこの土地に戻ってくることができた。今度こそ、できなかったことをやりきるために……ここでやり直そうって思ってるんだ」
「青司くん……」
「今は、その強い人間に……。強くなれた、って言い切れんのかよ?」
しみじみと聞き入っていたけれど、ふと黄太郎がそんな質問をする。
青司くんはちょっと考えてから言った。
「うん。と、言いたいところだけど……。画家としてはスランプ中、喫茶店だってこれからオープンってところだしね、そうとは言い切れないかな? 店が成功するかもわからないし……両方いい軌道に乗れてから、あらためて告白しようと思ってた。でも……ダメだな。再会して一緒に過ごす時間が増えたら、真白がどんどん可愛くみえてきちゃって……」
「は?」
ギロリと黄太郎の目つきが鋭さを増す。
「おいおい。まさかもう手を出したんじゃないだろうな?」
「……ええと」
「出したのか!?」
「……」
一瞬バチッと青司くんと視線が合ってしまったが、わたしは思わず下を向いた。
もうキスしてしまったとか言えない。
付き合おうとも言われてないのに、なんか流れでそうなってしまったことを思い出す。
青司くんは「さあ、そろそろ食べる準備しようかな」などと言って炊飯器からお皿にご飯を盛りはじめる。
「お前ら……」
黄太郎が送ってくる視線が痛い。
青司くん、お願いだからなんか反論して。わたしから説明することは不可能だよ。
青司くんは三つ分のご飯の上にキーマカレーをかけると、スプーンなども用意しはじめた。
「はい。とりあえず、冷めちゃうから食べながら続きを聴いて」
コト、コトッと、キーマカレーがそれぞれわたしと黄太郎の前に置かれる。
それはとんでもなく美味しそうな香りを漂わせていた。
黄太郎がそれを聞いて、わたしをじっと見つめてくる。
「今度はお前に訊いてやろうか、真白。今の話を聞いてどう思った? それは、長い間お前を傷つけていた正当な理由になるか? 俺がフラれる原因になった理由としても、すんなり納得できるものかよ?」
「それは……」
わたしは自分自身のことも、黄太郎のことも考えて慎重に言葉を選んだ。
「ずっとそんな思いを青司くんが抱えていたなんて……わたしは知らなかったから……。なんにも知らないまま、ただのほほんと片思いし続けていただけだから……何とも言えないよ。でも、黄太郎は……黄太郎はそれを知ってて、なんでわたしに……。どうして教えてくれなかったの!?」
「言えるかよ……」
吐き捨てるように言って、黄太郎はそっぽを向いた。
「俺だって、真白のことばかり考えてたんだ。好きなやつがいるやつを好きになった時点で、難しい戦いになることはわかってた。だから、青司が動かないでいることを、いつも助かったって思い続けてたんだよ……! 悪いか!」
「黄太郎……」
青司くんが申し訳なさそうな顔をしてわたしと黄太郎を見ている。
「そういう状態が大人になるまで続くと思ってた。でも……母さんが急に死んでしまって……俺も引っ越さなくちゃならなくなって……。真白にこの気持ちを伝えようと思ったけど……でも、俺はまだやっぱり一人前じゃなくて……だから……伝えられなかった。ほんと、ヘタレだよ」
そう言って、力なく笑う。
黄太郎はまだ憮然としたままだ。
こんな青司くんのことはまだ認められないという思いが態度にありありと出ている。
「俺は……母さんのことも、真白のことも、ちゃんと胸を張って幸せにできるような大人に……強い人間になりたかった。十年前はここでそれができなかった。でも、今は図らずも海外で一人前になって、またこの土地に戻ってくることができた。今度こそ、できなかったことをやりきるために……ここでやり直そうって思ってるんだ」
「青司くん……」
「今は、その強い人間に……。強くなれた、って言い切れんのかよ?」
しみじみと聞き入っていたけれど、ふと黄太郎がそんな質問をする。
青司くんはちょっと考えてから言った。
「うん。と、言いたいところだけど……。画家としてはスランプ中、喫茶店だってこれからオープンってところだしね、そうとは言い切れないかな? 店が成功するかもわからないし……両方いい軌道に乗れてから、あらためて告白しようと思ってた。でも……ダメだな。再会して一緒に過ごす時間が増えたら、真白がどんどん可愛くみえてきちゃって……」
「は?」
ギロリと黄太郎の目つきが鋭さを増す。
「おいおい。まさかもう手を出したんじゃないだろうな?」
「……ええと」
「出したのか!?」
「……」
一瞬バチッと青司くんと視線が合ってしまったが、わたしは思わず下を向いた。
もうキスしてしまったとか言えない。
付き合おうとも言われてないのに、なんか流れでそうなってしまったことを思い出す。
青司くんは「さあ、そろそろ食べる準備しようかな」などと言って炊飯器からお皿にご飯を盛りはじめる。
「お前ら……」
黄太郎が送ってくる視線が痛い。
青司くん、お願いだからなんか反論して。わたしから説明することは不可能だよ。
青司くんは三つ分のご飯の上にキーマカレーをかけると、スプーンなども用意しはじめた。
「はい。とりあえず、冷めちゃうから食べながら続きを聴いて」
コト、コトッと、キーマカレーがそれぞれわたしと黄太郎の前に置かれる。
それはとんでもなく美味しそうな香りを漂わせていた。