「あの~、まだですか?」
「はい、すみません、もう少々お待ちくださいませ!」

 もう何度目だろう。
 このセリフを口にするのは。

 わたしの職場は現在、殺人的な忙しさとなっていた。

 お昼時のファミリーレストラン。

 次々にお客様がご来店しているが、席へのご案内も配膳も、正直追い付いていない。
 いわゆる「猫の手も借りたい状況」である。
 でも、ホールにはわたしと女の先輩の二人しかいない。

 数名の高校生アルバイトたちが、この間、卒業を期に一斉に辞めてしまったのだ。

 ここ最近は連日、この少ない人員で回されている。

 わたしはこの店にウェイトレスとして採用されてから、初めて音をあげそうになっていた。


「はあ……はあ……お疲れ様でした……」


 後から来た先輩たちにバトンタッチしながら、よろよろとバックヤードに駆け込む。

 もう限界。
 早く帰って休みたい……。


 午後五時十分――。

 タイムカードを切って、ようやくわたしは解放された。

 私服に着替えて、店の裏に停めてあった白い自転車にまたがる。


「は~、もう忙し過ぎだよ~。早く新人入れてほしいなあ……」


 店の前は車がブンブンうなりをあげて走っている。

 相変わらず土埃がひどい。

 わたしはあわててコートのポケットに入っていたマスクをつけた。