澪は放心状態のまま、涙を流していた。



「っ……」



「俺は桜 稚尋(サクラ・チヒロ)覚えて。……姫」



稚尋はそう言って澪の頭を撫でると、保健室を出ていった。


後に残された、放心状態の澪。



「なによ……あいつ」



初対面で、いきなり好きでもない男に泣き顔を見られるなんて、本当に最悪だ。



桜 稚尋。



最低な男だ。今まで見てきた男の中でもダントツで最低な男。


初めて彼を見た瞬間、正直驚いた。


綺麗な栗色の瞳。


艶やかな薄めの唇。


表情を隠すかのように垂れる栗色の髪。


思わず息をのんでしまう程に綺麗な男の子だと思った。


それだけで留めてくれたらよかったのに。


初対面でいきなり泣かされることになろうとは、夢にも思っていなかった。


本当に、今起こった状況が理解できない。



「もう……やだぁ……っ」



桜 稚尋。


本当に、変な男に目をつけられてしまった。


今日は本当に運が悪い一日だ。


それなのに。


彼に触れられた部分がやけに熱く感じた……。








★泣き虫お姫様

【END】