「……稚尋!?」
澪は稚尋に走り寄った。
「おー、帰ろ」
「帰ろって……もう7時だよ!?」
驚く澪など気にも留めず、稚尋は笑顔で澪を見つめていた。
「んー。まだ靴があったから……待ってれば来るかな、と思ってさ」
稚尋はそう言って、へらへらと笑いをこぼす。
来るかな……って。
来なかったらどうしたのよ。
澪は思わず顔をしかめる。
「あれ?稚尋……口、どうしたの?」
稚尋の口元は、切れて血が滲んでいた。
「あっ……あぁー、コレ?」
それに気付いた稚尋は、慌ててそれを手で拭った。
そして、苦笑いをしながら言った。
「ちょっと、女の子にね……」
「叩かれたの……?」
稚尋の頬は赤く腫れていた。
そんな頬を隠すように顔を背ける稚尋。
「秘密ー♪」
ごまかす稚尋の肩を、澪は叩いた。
それに稚尋はわざとらしくよろけてみせた。
「一人で帰れば?別に稚尋と帰ろうとか思ってなかったし」
澪は頬を真っ赤にしながらそんな言葉を吐いてしまう。
声が震えていた。
どうして私はこういう言い方しか出来ないのだろうか。
あの稚尋が、私と帰るために7時になるまで待っていてくれていたのに。
少しくらい優しくしてあげてもいいのかな。
そう、素直に言えればいいのに。