「冬ちゃん……」
「ん?」
「私、そんなにいい子じゃないよ。稚尋が私を本気で好きなわけない」
澪は自分に自信が持てなかった。
否定的な言葉を口にする澪に対し、冬歌は表情一つ崩さずに言う。
「そんなの、本人に直で聞きなさいよ」
「無理だよ……」
無理。
澪はそう言って、うつむいてしまった。
『私の事が好きなの?』
そんなことを稚尋に自分で質問できる訳がない。
もし、質問できたとしても、本気の解答は絶対に返ってはこない。
私には無理なことだ。
大きく首を横に振る澪に、冬歌は目線を合わせ、言う。
「ほら。もう7時だし。稚尋、昇降口で待ってるって言ってたから……」
冬歌の言葉に、澪は目を見開いて驚く。
「え?」
そんなの、聞いてない。
時刻は午後7時。
流石にもう、帰っただろうと思っていた。
「行ってあげなさいよ。稚尋は本気みたいだから」
嘘、嘘、嘘、嘘……。
嘘だよ…………。
澪はその事実がどうしても信じられなかった。
稚尋が私なんかのために、そこまでする訳がない。
一途な想われ方をされたことがない澪には、信じがたいことだった。
「でもっ……」
「何がでもなの。どっちみち、もうここ閉めるから。出て」
冬歌は、シッシッと澪を追い返すように手ではらった。
「ん……ありがとう…………お姉さん」
稚尋のお姉さん。
たとえ普段慣れ親しんだ保健室の先生だとしても、今目の前にいるのは稚尋の義姉である冬歌だ。