―いいよ―
その言葉が澪の口から発せられるのを、稚尋はただ待っていた。
そんな稚尋に澪は言った。
「……やっ……やめてよ!」
稚尋には、現実が受け入れられなかった。
ほろ苦い過去が、稚尋の頭の中を駆け巡る。
「姫……」
再度チャレンジするものの、結果は同じだった。
「嫌っ……!」
そう言って澪は稚尋を突き飛ばす。
稚尋を拒んだ女の子は、“あの人”以来初めてだった。
「その顔……すっげぇクる」
だから余計に欲しくなった。
どんな卑怯な手を使っても、手にできなかった過去を拭い去るように。
“あの人”と、澪を、稚尋は重ねていた。