「っ……ひっ」
生徒が部活で汗を流す放課後。
「……っ」
先ほどから、誰かの泣き声が聞こえる。
稚尋はカーテンの隙間から、そっとその人物を覗き見た。
そこにいた人物に、稚尋は目を丸くして驚いた。
そこにはなにか悲しいことがあったのか、ひたすらに涙を流し続ける女の子がいた。
稚尋には、その女の子に見覚えがあった。
それは、男子の間で噂だった泣き虫な美少女。
朝宮 澪。
直接見たことはなかったが、噂だけは知っていた。
噂の彼女が自分のすぐ隣のベッドで涙を流している。
この場所からでは横顔しか見えないが、濡れた長い睫毛がしっかりと見える。
確かに、噂は本当のようだ。
噂では、彼女は告白しても誰にもOKしてもらえないらしい。
その真相は知っていた。
男子たちは皆、“皆の澪ちゃん”などという馬鹿げた協定をつくり、彼女を女神のように崇めていた。
女神のように崇めている彼女が、傷つき、泣いているとも知らずに。
小林 大輔も、その一人だった。