それでも当時の稚尋には、そんな危機感など一切なかった。


稚尋は微笑み、女の側に歩み寄る。



期待と高揚。


その両方から、女の肩がピクリと動いた。



「なぁ、君は……なんて名前?」



相手の名前なんて知らない。


先ほど初めて会ったばかりの女。


それ以上の情報は、ただ邪魔なだけだ。




「……琉梨」




「るりちゃん」




女の答えに、稚尋は笑顔で微笑み、知ったばかりの女の名前を呼ぶ。



そうすれば、女は途端に頬を赤く染める。



同じだけの反応に、稚尋はそろそろ飽きていた。



「一回きりって約束は守れるよね?」



稚尋の言葉に、女は渋々首を縦に振った。



後腐れのない関係が理想だ。



女の恨みが一番恐ろしい。


それでもこの関係を続けているのは、日々の生活に刺激を求めているからなのだろうか。



何のためにこんなことを続けているのか、自分ではさっぱり分からなくなっていた。




確かに、女の子と一緒にいる時間は楽しい。



しかしそれも一瞬の華。


時が経てばそんな感情、消えてなくなる。




いつから自分はこんな風になってしまったのだろう。




「はぁ……」




稚尋は思わず大きなため息をつく。




虚しい。