「コバミにフラれた……!……っ」
同級生の小林 大輔(コバヤシ・ダイスケ)通称コバミにフラれたからだ。
事実を口にした瞬間、澪の瞳からまた涙が溢れてきた。
そんな状況の澪の額を、冬歌はちょんっと人差し指で小突いた。
「あんた、また泣きながらコクったんでしょ?」
「だって……」
“私、いっつも緊張し過ぎて泣いちゃうんだもん”
そう言い訳をしながら澪は下を向き、俯いてしまった。
「顔はお人形みたいに可愛いのにねー……可哀想に」
「冬ちゃん!それ、慰めてんの!?」
「バカにしてるの!」
そう言いながら、冬歌はケラケラと笑った。
この人は、本当に先生らしからぬ先生だと思う。
先生って言うのはこう、ついこの間赴任してきたばかりの新人教師、鈴葉 雨姫(スズハ・ウキ)先生みたいな、優しくて頼りになる人を指すのだろう。
雨姫先生の栗色の髪の毛が、澪の憧れだった。
それでも、こうして澪と対等に付き合ってくれる冬歌のような教師は少ない。
「冬ちゃんのバカ……」
「ははっ!……まぁ、あたし職員室に用事あるから、しばらくここにいればいいよ」
「うん……ありがとう」
冬歌は澪にニコリと笑い、保健室を後にした。
冬歌が出て行った後の保健室は、ガランと静まり返っていた。
放課後、保健室の扉を開く者は滅多にいない。
「……いいや、少し寝よう」
澪は涙を拭い、保健室のベッドに倒れ込んだ。