雨上がりの湿った暖かい外気。
鼻をつくアスファルトの臭いが直に伝わってくる。
無機質な、生暖かい空気と臭い。
そんな外の様子を保健室のベッドで眺めながら、涙する一人の少女。
「ひっ……っ……うっ」
朝宮 澪(アサミヤ・ミオ)
涙腺が人の五倍は緩い中学三年生の女の子。
澪は、何かあるとすぐにこの保健室に駆け込んでくる、言わば保健室の常連だった。
そして今日も……。
シャア、と軽い音がして、保健室のベッドを仕切っていた薄いカーテンが勢いよく開く。
カーテンを開いた人物は、澪の姿を見つけると、はぁ……と深いため息をついた。
「朝宮ぁ……お前、今度はどうしたんだよ?」
「先生ぇー!……うぅ……」
藍田 冬歌(アイダ・フユカ)二十六歳。
この学校に勤務する、女性の保健室の先生だ。
「泣くな!」
「でもぉ……っ……」
少々男勝りだが、面倒見のいい先生である。
「……で?何があったの」
冬歌は腰に手をあて、ため息をつきながら言った。
澪は溢れ出る涙を拭い、冬歌を見つめた。
澪が今日、保健室に来た理由。
それは。