「はい、ハンカチ」



次の日、澪はようやく見つけた稚尋にハンカチを渡した。



うまく稚尋と目を合わせることが出来ない。



「お……そーいえば、貸したっけ?」



なによ、そんなことも忘れてたの?



「貸したでしょ……」



「忘れてた」



稚尋にとっては、そんなことだったんでしょ?どうせ。


澪はため息をつく。


次の瞬間、稚尋は口角を上げて笑った。




とても不気味なほど美しく。



「……なんてな?忘れる訳ねーじゃん。お前も、ちょっとは俺のこと……意識してくれた?」




そう言いながら、稚尋は人目につきにくい柱の隅に澪を押し付け、距離を詰める。






心臓がうるさい。



この状況はどうしたらいいだろう。



稚尋の息が澪の首筋に這う。



近いよ……稚尋。



動揺する澪を見て、稚尋は笑った。