澪は伏せていた瞳を、ゆっくりと稚尋へと向けてみる。
気がつくと、稚尋が椅子から立ち上がっていた。
些細な彼の行動にも、澪は過剰に反応してしまう。
「……」
立ち上がっていた稚尋は澪にゆっくりと歩み寄ってくる。
また、何かされる……?
澪の体が再び強張っていく。
稚尋は、澪の目の前で立ち止まり、硬直している澪に向かって言った。
「ごめん」
真剣な表情だった。
「え?」
稚尋からの突然の予想もしない謝罪の言葉に、返す言葉が見つからない。
それだけ言うと、稚尋は澪の太ももに青いハンカチを置いた。
その行動に、澪は目を見開いて稚尋を見つめてしまう。
稚尋の顔が、一瞬切なそうに歪む。
しかし、次の瞬間には元の笑顔に戻った。
多分、思い過ごしだったのだろう。
稚尋はただただ驚く澪を見て言った。
「……早く、俺の女になれよ」
そう言って、稚尋は微笑んだ。
不敵な稚尋の笑顔に、澪の背筋に悪寒が走る。
心臓が、鳴り止まない。
やめてよ。
その顔……。
そんな言葉……。