なんだろう……この空気。
「………………」
稚尋にかける言葉が見つからない。
戸惑う澪に、稚尋が口を開いた。
「……姫、けじめ……ちゃんとつけたよ……俺がつけた自分の傷の分は全部……」
とても、穏やかな声だった。
「……稚尋?」
目の前に、両手を広げた稚尋がいる。
稚尋は壁にもたれかかったままだった。
「姫、来て」
今の俺なら、君を力強く抱きしめる事が出来るだろう。
だから、俺の胸に早く来て。
君を、抱きしめたい。
ただそれだけだった。
目の前にある光景に、澪は動揺していた。
大好きな、稚尋の胸に飛び込む。
それは嬉しいはずなのに、どこか抵抗があった。
私は……飛び込んで、いいの?
この、大好きな人の胸に。
そんな心とは裏腹に、体は正直だった。