この、過去の傷を自らの手でえぐるか。もしくは…………。
自分の、今の気持ちに従うべきか…………?
答えは。俺の、答えは。
「…………ちー?」
稚尋は、雛子の額にそっと触れるだけのキスを落とした。
俺は自らの手で、傷をえぐるような事はしない。過去は、振り返らない。
それが、未来のため。
「自暴自棄になってるだろ、お前」
きっと、今の雛子は少し前の俺だ。
やるせない気持ちを他人にぶつける。
そう言う事しか、出来ないでいるんだ…………。
「……なんで」
「わかるよ……雛は、ずっと俺を支えて来てくれたんだから」
小さい頃からいつも隣にいた存在だったから、雛子が悲しい顔をしてれば、わかる。
そう言う女なんだ、雛子は。
「…………やっぱ、ちーには嘘が通用しないね」
雛子はそう言って、笑った。
その時だった。教室の扉が、開いた。
稚尋は思わず肩を震わせる。
「……ちー、お迎えが来たみたいだよ?」
雛子が、笑いながら教室の扉を指差した。
その物音の正体は稚尋の、愛しい者だった。