稚尋が、稚尋自身の手で終止符を打たなければならない。
いまはもう、雛子の涙をこの手で拭い取る事すら、罪悪感にかられる始末。
“今”と“昔”全くの、別物。
「……あぁ」
「……そうよかった」
安堵にも似たため息をつき、雛子は柔らかな微笑みを浮かべた。
「…………雛はちーの事が好きだった、ずっと、ずっと……」
今じゃなくて、出来ればあの時に、聞きたかった。
そうすれば、俺達の未来は変わっていたのだろう。
稚尋は雛子の瞳から視線を反らす事なく、留まり続けた。
教室の中では、お互いの呼吸音すら、確認する事が出来た。
「……出来れば。あの時に聞きたかったな…………」
稚尋は大きくため息をついた。
「本当、あの時言ってたら…………ちーが澪ちゃんと会っても……ちーは、雛の彼氏だったのにね?」
二人の笑顔は出会った頃のように、柔らかい、温かなモノだった。
「雛……一つだけ聞かせて欲しい」
「何?」
「澪の……友達になってやってくれるか?」
「雛に…………?」
雛子は、稚尋の言葉に目を見開いた。