* * *
体育祭が終わった後、誰もいないはずの教室に二つの人影。
それは。
「なに……?ちー。こんな所に呼び出して」
「大事な話があるんだ、雛」
稚尋と雛子。
澪がこんな汚れきった俺を信用してくれるなら、俺はちゃんとそれに答えなければ。
たった一つの手に入れたいもの。
その手に入れたいもののためには……数え切れない程の苦労が必要だ。
それは今まで身勝手に生きてきた人生を振り返るため。
澪が最後の女になるかはわからない。たった十五年。
その十五年の間に残した闇は、その体にはとても似合わない。稚尋は、自分で自分を傷つけてきた。
「わかってる……澪ちゃんのことでしょう?」
雛子は、フッと力なく笑った。
稚尋は罪を重ね、その存在意味を追求したかった。その過程で澪に出会った。
そんな馬鹿げた事なんて、止めてしまおう、そう思った。
澪より、惚れてんのは俺の方なのかも知れない。
「……お前、変わったよな」
少なくとも、今、一番に俺の頭を支配するのは……澪。
手に入れたくて、触れたくて、喜ばせたくて、笑顔が見たい。
そう思える、唯一の存在なんだ。
じっと雛子の瞳を捕らえる稚尋を見て、雛子は視線を反らし、言った。
「変わったのは……ちーの方だよ」
雛子はかすれた声をしぼり出す。
二人の微笑みに、たいした力など込められてはおらず、あるのはただ、自分を蔑むような、心。
雛子と稚尋。お互いに、傷を作った同士だった。