ねぇ雛子……。




ちーって?


どうして稚尋に抱き着いているの?




どうして稚尋も、雛子を拒まないの?



澪の心臓が、焦り出していた。


ただ呆然と、二人の様子を見つめていた澪に気付いた雛子が、横目で澪を見ながら言った。



「紹介するね、澪ちゃん。稚尋は雛の彼氏だよ♪」



幸せそうな笑顔。



確かに、澪は稚尋の彼女ではない。



でも、稚尋は私を好きだって、言ってくれてたじゃない。


あれは……嘘?



今にも泣き出しそうな澪に気付き、稚尋は澪を見つめた。



「雛っ……。澪、これは雛の冗談だから」


「えー?ひどいじゃない?」


ごめんね、稚尋。


今の私には、何も信じられない。



「彼女……いたんだね?」


「だから違うって!」



「嘘」



そんな澪と稚尋を見ていた雛子は、クスッと笑いながら澪に言った。




「……もしかして、澪の好きな人は……ちー?」



「…………」



澪は雛子に返す言葉が見つからない。



「ごめんね?ちーは雛の彼氏だから」



“雛の彼氏だから”


雛子はそう言って笑った。



そこで、澪の疑問が晴れた。

そうか。


雛子は、稚尋に会いにくるために学校に来たんだ。



彼氏、だからだ。


「っ……!」


澪は溢れる涙を隠すように、その場を逃れた。


涙が、とまらなかった。