「痛っ、いてーよ!離せ!」
冬歌はようやく、稚尋の頬から指を離した。
そして、冬歌は再びため息をついた。
「で?その気になった訳?」
「とっくに。澪は守らねーといけねぇからな」
稚尋はそう言いながら、遠くで笑っている澪を見つめた。
あいつだけは、絶対に俺が守らなくちゃいけない。
稚尋はそう決意し、拳を固く結んだ。
「へー、男らしいじゃん?」
冬歌はそう言って、稚尋を鼻で笑った。
そんな冬歌に、稚尋もまた笑って見せた。
「男だっつーの」
「あ、そ」
言葉がなくても、最後くらいはちゃんとわかり合える。
少なくとも、冬歌は稚尋を五歳の頃からずっと見続けている。
冬歌と稚尋。
姉弟になったあの日から、あたしはあたしの決心を曲げるつもりなんてない。
“稚尋はあたしが守る”
稚尋が澪を守りたいと思うように。
あたしは稚尋を守る。
毎日、自分に聞かせているんだ。
「じゃ、頑張って」
「あぁ」
二人は視線を合わせ、また再び別々の道を歩き出した。
遠くでは、雛子と澪の笑顔が輝いていた。