「……っ」



その近さに違和感を感じながら、澪は稚尋の表情を見上げる。


目鼻立ちが整った、キレイな顔。


彼から香る、甘い香り。


まるで、人を惑わせるような、そんな香りだった。



普通に出会っていれば、澪は稚尋に恋をしていたかもしれない。



“普通に出会っていれば”だ。



「私は……あんたのものなんかには、ならないっ……!」



出会い方を間違えたの。


アナタは、私を傷つけた。



澪が必死に稚尋を睨み付けていると、稚尋の手のひらがゆっくりと伸びてきた。


稚尋の片手が澪の両頬をつまみ上げる。


頬をつままれ、顔を動かすことが出来ない。


次第に込み上げる澪の涙は、稚尋の指を濡らした。



「やだっ……はなしてよ!」



澪の抵抗に、びくともしない稚尋の腕。


稚尋は表情一つ崩さずに澪を見つめていた。



いやだ……。



これ以上、見ないで。



澪の気持ちと裏腹に、涙は止まらなかった。


澪は、泣き虫な自分が大嫌いだった。


澪の瞳から新たな涙が零れた時、今まで黙っていた稚尋が口を開いた。