* * *
保健室に戻り、扉を閉めると同時に、稚尋は澪を抱きしめた。
呼吸が苦しいほどに。
「稚尋……苦しいよ」
稚尋は深いため息をついて、言った。
「よかった、澪……」
そう言えば、こうやって抱きしめられたのは、初めてだ。
「はっ……離して?稚尋」
急に恥ずかしくなって、稚尋から逃れようと抵抗するが、澪が敵うはずもない。
ただ、すっぽりと稚尋の胸におさまっているだけだ。
「はなして……」
「やだ」
「お願い」
「好きって言ったら、はなしてやってもいいよ」
「…………っ!!!」
言えない。
たった二文字の言葉なのに、声が出ない。
「やだ」
抱きしめられ、頬を染めながら澪は言った。
澪を見て、稚尋はいつものように悪戯な笑顔を覗かせた。
「じゃあ……俺が好きなだけ、抱きしめてる」
稚尋の顔が近い。
それと同時に、稚尋の熱い息までもが、澪の感覚を鈍らせる。
「やぁだ……」
「何言ったって。もう手遅れだよ……姫」
稚尋は澪を抱きしめながら、優しくキスをした。
なんでだろう。
そのキスは、全く嫌じゃなかった。
「……稚尋、ありがとう」
キスの中、澪の頭の中では稚尋の切ない横顔が過ぎった。
あれは……何?
そんなことなんて、稚尋は意図も簡単に掻き消した。
澪はただ、幸せに包まれていた。