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『はぁーあ!彼氏欲しいな』
瑛梨奈は中学に入学したばかりだった。
澪と出会って仲良くなる前だ。
その頃は、ちゃんと泣けたし、本来の笑顔だって持っていた。
人を憎むなんてことはありえなかった。
一学期が始まってすぐに、稚尋が声をかけてきた。
『お前……俺と付き合わない?』
瑛梨奈は彼氏という肩書きが欲しかった。
そんな浅はかな考えで、稚尋との交際を承諾した。
けれど、幸せは長くは続かなかった。
『えり』
表情一つ変えないで、稚尋は瑛梨奈を見つめていた。
『何……?』
瑛梨奈は知らなかった。
もう、稚尋の瞳に瑛梨奈が映っていないことに。
知らなかったからこそ、稚尋を愛することが出来たのに。
ある日、見てしまったのだ。
瑛梨奈の知らない稚尋を。