途端に稚尋の口内が鉄の味に占領される。
しかし、稚尋が涙を流すことはなかった。
もう、どうでもいい。
稚尋は、自分自身を心の奥に封じ込めた。
そんなある日、外国に住んでいたはずの幼なじみ、雛子が稚尋の家に泊まりにきた。
『ちー!!!久しぶりね』
慣れない日本語で、雛子は稚尋に挨拶をした。
最後に稚尋が雛子に会ったのは、記憶もままならない二歳の時。
まだ弥生が母親のお腹にいた時だ。
『久し……ぶり』
漆黒の長い黒髪に、真っ赤なカチューシャがよく似合ってる。
稚尋の初恋だった。
『ちー、大好きだよ』
五歳の誕生日、稚尋は雛子に言われた。
『俺もだよ』
幼なじみだってことはわかっていたが、大人じみていた稚尋は、その気持ちを押し込めた。