『あんたなんかより、弥生の方が何倍も可愛いわ』
それは稚尋が四歳の時、母親に言われた言葉だ。
母親は、長男の稚尋より二歳年下の次男、弥生ヤヨイを可愛がった。
弥生はずっと笑っている笑顔の絶えない子で、二歳の時すでに稚尋から母親も父親も奪った。
稚尋にとって弥生は憎くて、堪らない相手だった。
『兄ちゃん!兄ちゃんっ』
どうして俺に付き纏う?
なんの屈託のない笑顔で、どうして笑っていられるんだよ?
『弥生……』
憎くて、堪らない相手だ。
『稚尋、あなたまた弥生を泣かせたのね!?』
違う。
違うんだ、母さん。
『弥生が俺の……』
弥生が俺のおやつを食べたから、注意しただけなんだ。
それなのに。
『言い訳ばっかり言わないの!!!』
『っ……!』
稚尋の頬に、鈍い痛みが走った。