冬歌は稚尋に何度も笑いかけた。
『稚尋……!』
彼の心の闇を拭い取ってあげるために。
『……稚尋!今日はね?』
だけど。
『……稚尋?』
稚尋の心の闇は深すぎた。
十年たった今でも、稚尋は完全に心の闇を払った訳ではない。
ただ、一度だけ。
冬歌が二十歳でお嫁に行った時、初めて稚尋は子供に戻った。
九歳だった稚尋。
『冬歌、冬歌……お嫁さんになっちゃいやだ!冬歌は……俺を守ってくれるんじゃないのかよっ……』
小さな子供のように、稚尋はわんわん泣いた。
その時、冬歌は痛感した。
稚尋はあたしが守ってあげようとした気持ちをちゃんとわかっていたんだ。