「……そうか、な?」
「そうだよ」
「……ん。……なんか、ありがとう……私、聞いてくる!」
勢いよく立つ澪に、冬歌は笑顔で応えた。
保健室の扉が閉まった。
あとに残ったのは、冬歌ただ一人。
「まったく、稚尋は……どうしてあの子は最後の詰めが甘いんだろう?」
冬歌は大きなため息をつく。
稚尋の義姉になって、早十年。
今のところ、五歳の頃に初めて会ったあの時と、稚尋は何等変わっていないように思えた。
いや、少し変わっただろうか?
と言うか、十五歳になってやっとその年齢に精神が追いついた、と言った方がいいかもしれない。
初めて会った彼は、大人過ぎた。
『はじめまして、今日からあなたの姉になる冬歌です!冬歌って、呼んでいいからね』
十六歳だった冬歌。
五歳だった稚尋に話しかけるのは、早く仲良くなりたかったのかもしれない。
ニッコリと笑う冬歌に向かい、稚尋は言った。
『よろしく、冬歌……仲良くしようね』
五歳の男の子が、冬歌に笑顔で手を差し延べた。
その笑顔は、瞳の据わったニセモノの笑顔。
冬歌は背中にゾクリと寒気に似た、何かを感じた。