その言葉が嬉しくて、思わずにやけそうになる表情を隠す為、俯きがちに頷く。


「ありがとう」


 柔らかな笑みを浮かべたハル先輩の、その端正な顔立ちに思わず目が釘付けになる。

 何だかんだと自分にもこんなミーハーな一面があったんだなと、内心苦笑していると「近くまで送るよ」と申し出を受ける。

 だけど反射的に相手に対する申し訳なさが勝り、私の脳は断り文句を弾き出す。


「……いえ、近くなので大丈夫です」

「あれ?俺もしかして警戒されちゃってたり、……する?」


 せっかくの申し出に水をさしてしまった事で、気を悪くさせてしまったのではないかと不安になる。

だからしどろもどろになりながらも、なんとか必死に弁解を試みた。


「いや。……えっと、そうではなくてわたしなんかの為に、……ハル先輩にそこまでして頂くのは申し訳ない、です」

「それ。やめない?」

「——え?」


 突然、どこか切な気な表情をするハル先輩に戸惑う。

 私と言えば、何か気に触る様なことでも言ってしまったのではないだろうかと、内心ハラハラしていた。

 だけどハル先輩は穏やかな口調でわたしを諭した。


「”わたしなんか”って自分を蔑む様な事、君には何もないでしょう」

「(……怒ってるわけじゃなかったんだ。単にハル先輩はわたしが自分のことを、蔑んでいると思っていたんだ。)」


 そう安堵するのと同時に、ハル先輩の言葉が深くわたしの中に刺さった。

 だけど、ハル先輩は一つだけ間違っている。

 わたしは自分を卑下しているから”わたしなんか”という言葉を使っているわけではない。

 昔から自己評価が低い自覚はあった。だけどそれは、”謙虚”とも違う全くの別物だ。

 この世界は、二つのタイプの人間がいるとわたしは思う。それはシンプルに”強者”と”弱者”であり、違いがあるとすれば人によって呼び方が異なると言うだけの話。


搾取する側と搾取される側。
評価する側と評価される側。
指図する側と指図される側。