だから皆、きっと知りたくなってしまうのだ。
——色んな表情の引き出しを持つ、ハル先輩のことを。
彼のその多彩な表情の引き出しを、誰もが開けたくて堪らないのだろう。
「——これ、君のだよね?」
ふいに思い出したように、ハル先輩がこちらへと何かを差し出す。
それは昨日わたしが部室に忘れて帰った、件のマイナーバンドのCDだった。
「……あ。それ探してたんです!! ……良かった」
受け取ったCDを見てほっと息をつく。
思い返せば、初めは所謂ジャケット買いと言うやつで、何となく気に入っただけ。
正直な話、そのバンドの存在すら知らなかった。
だけどヘッドホン越しに聴いたその曲が、ドラムを始めるきっかけとまでになったのだから、人生何が起こるか分かったもんじゃない。
それにしても、こんなマイナーバンドをハル先輩も好きな事に驚いた。
自分とは、決して縁のない人だと思って居ただけに余計だ。
同じ学校にそのバンドを知っている人がいたと言う事自体が、最早驚きでしかなかった。
それにこんな些細な共通点で、一気に親近感を抱いてしまうのだから人って不思議だ。
それからしばらくの間、二人で件のバンドについて語り合った。
これ程までに好きな音楽の話で盛り上がれる相手に、わたしは初めて出会った。
どうやらそれはハル先輩にも言える様で、普段できない話なだけにお互いかなり盛り上がっていた。
それは会話が途切れる暇もない程に。
初めて誰かと共有できると言う喜びが、この上なく心地が良かった。
同士だと分かるや否や、緊張など吹っ飛び話に夢中になる。
すると、あっという間に楽しい時間は過ぎて行った。
「あ、もうこんな時間か。……楽しくてつい話し過ぎた」
と言うハル先輩の言葉でお開きになる。気付けば外は、既に真っ暗だった。
「わたしも凄く楽しかったです」
「それは良かった。また、部室に来てもいい?」