不思議に思い、そっと中を覗き見ると、そこには既に先客が居た。
それも、自分とはまるで無縁の存在が。
おそらくこの学園で、知らない者がいないほど有名な彼——ハル先輩の姿がそこにはあった。
一瞬れっきとした部員であるはずの自分の方が、部室に入る事を躊躇してしまう程まるで現実味のない出来事に戸惑う。
するとそこで、こちらに気付いたハル先輩が口を開く。
「——もしかして、いつもここでドラムを叩いてるのって君?」
一瞬問われている質問に思考が追いつかず、返答が遅れる。
「……はい。わたしです」
何故そんな事を聞くのかと、不思議に思っているとハル先輩が再び口を開く。
「そっか。実は誰が叩いてるのか、ずっと気になってたんだ」
「……ッ、」
まさか誰かに聞かれていたなんて思いもしなかった。
誰かに聴かせるにはお粗末過ぎること位、わたし自分が一番よく分かっているから。
「(……それなのに、よりにもよってまさかあのハル先輩に聞かれていたなんて。)」
その事実を自覚した途端、一気に恥ずかしさが込み上げる。
そんなわたしの胸の内など知る由も無いハル先輩は、さらに続けた。
「……このバンドが好きな奴なら分かると思うけど」
と、前置きしたハル先輩は端整な顔をほころばせる。
「マイナー過ぎて知ってる奴中々居ないからさ。同士見つけたのが嬉しくて、一体誰がこのドラム叩いてるんだろって気になってたんだ」
「——、」
ハル先輩が口を開く度に、何となくこの人が女子から騒がれる理由が分かった気がした。
彼の放つ不思議なオーラは何と形容すれば良いのか。
人を惹きつけて離さない魅力とでも言うんだろうか。
華がある人とは、きっとこう言う人の事を言うのだろう。
端整な顔は一見すると冷たくも見えるけど、彼が笑うと爽やかで柔らかい印象を与える。
だけどその長い睫毛が伏せられ影を作ると、途端にその表情はどこかミステリアスなものへと変わってしまう。