「シキ」


 ハルの手がわたしの髪から一度離れ、スタンドにギターを立て掛ける。

それから再びドラムの前に座るわたしを、ハルは軽く屈んで真っ直ぐと見つめた。

 長身でいて、すらりとした身体とその整った顔立ちが視界いっぱいに映り込む。

 色素の薄いアーモンド型の綺麗な瞳と視線が交差し、思わず目が離せなくなっていた。


「大丈夫。俺もシキと同じ気持ちだから」

「……っ、」

「アキもそう思うだろ?」

「ああ」


 自分で言い放ったセリフのくせに、今更ながら羞恥を覚える。

 だけど、ハルもアキ先輩も決して茶化したりせず、真剣な表情で強く、確かに、わたしを肯定してくれた。

 そんな二人に感謝しつつ、わたしは再び口を開いた。


「なんか変な話なんですけど、……初めてのセッションのはずなのに、まるで、——ずっと昔から合わせてきたかの様な安定感を覚えたというか……錯覚なんでしょうけど、」


 こんな事を言えば、変な奴って思われるかもしれない。

 わたしの言葉に二人はどんな反応をするのだろう。

呆れられてしまうのだろうか。

 だけど今は、そんなことどうだってよかった。

 ただただこの気持ちを口にしたかった。

そして、二人とのセッションで知ってしまったこの感情を伝えずにはいられなかった。

 だけど二人の反応はわたしの想像とは全く違うものだった。


「それ俺も全く同じこと思った」

「俺も何て言うか……例えるなら、ぴったりとパズルのピースがハマる様な感覚が心地良かった」


 正直、ハルとアキ先輩の反応にわたしは驚いた。

二人がわたしと同じように感じていてくれたことに。


「なあ、アキ。もうこれは決まりじゃね?」

「だな」


 二人が頷きあっている中、一人ついていけずに首を傾げる。

 すると、そんなわたしに太陽のような笑みを浮かべたハルが口を開く。


「シキ。俺たち三人で文化祭のステージ発表に出てみない?」

「——へっ?」


 側から見たら、相当間の抜けた顔をしていたと思う。

 この二人とわたしがステージ発表?


 いつだってみんなの視線が自然と集まってしまうような特別な存在であるハルとアキ先輩が、文化祭のステージに立てば、それはもうこれ以上ないってくらい盛り上がるに決まっている。