冗談口調で皮肉交じりに笑ったアキ先輩が、キャップを捻りスポーツドリンクを口にした。
そのアキ先輩に倣い、わたしもボトルに口をつける。
自分でも気付かない内にかなり喉が渇いていた様で、ボトルの三分の一ほどの量を一気に流し込み、喉を潤す。
外気はおそらく既に考えたくもないほど上昇しているのだろう。
だけど不思議とここ旧校舎は、ひんやりと心地よく、ふわりとどこか懐かしさを覚える木の香りが鼻腔を擽る。
ふと見つめた先にハルの姿を視界に捉える。
うだる様な暑さの中やってきた彼は、一気にボトルの半分ほどの量を飲み下していた。
何故だかハルがボトルを呷り、ゴクリと喉を鳴らす姿に目が釘付けになる。
俗に言うセクシーと言う言葉が頭に浮かんだ。
なんて爽やかに汗を流す人なのだろう。
多分、わたしが彼の立場なら単に汗でベタつく身体に嫌気が差し、周りも不快に思うだけだろう。
だけどやっぱりハルは、非凡であり特別な存在なのだと思った。
あまり見つめ過ぎるのも不自然なので、私はちらりと隣にいるアキ先輩を窺った。
ハルと同じく特別な存在であるアキ先輩に至っては、涼しい顔で暑さなど微塵も感じていないかの様だった。
その後しばらく休憩して、それからようやくわたし達はそれぞれの持ち場についた。
持ち込んだギターのチューニングを終え、アンプに繋いだギターを抱えたハルはわたしとアキ先輩の目の前に立った。
そうする事でわたし達はトライアングル上に、向かい合う形となった。
一体どうしてこんな状況になっているのかもはや理解できないし、戸惑いもある。
だけどこれまで自分以外の部員と顔をあわせる機会のなかったわたしにとって、これは初めてのセッションなのだという興味の方が優ってしまう。
「よし、じゃあとりあえず合わせてみるか」とハルが言うと、すかさずアキ先輩が口を開いた。
「曲は『慟哭』で」
「お! いいね。シキずっと練習してたもんな。俺、あの曲好き」
「——え、」
“何でハル先輩そんなこと知ってるんですか!?”と口に出かけて、何とか寸前のところで抑え込む。