「ハルが来るまで俺とシキだとベースとドラムだからリズム体しかいないけど、爆音で曲流して、それに合わせて演奏すれば何とか形にはなるだろう」
「……え。でも、わたし今まで一度もセッションなんてやったことないです」
「大丈夫。そう身構えずいつも通りやればいいから。曲は何がいい?」
「えっと……今練習してるのは、“neoir”の『慟哭』です」
それはハルと出会うきっかけとなった件のバンド——neoir(ネオアール)の曲だった。
「ハルから聞いてたけど本当にneoir好きなんだな?」
「え! アキ先輩もneoir知ってるんですか?」
「知ってるも何もハルにneoirを勧めたの俺だから」
「え!? そうなんですか?」
「うん」
アキ先輩がクツリと笑った瞬間、記憶の中のあの日のハルとアキ先輩が被った。
ハルが太陽なら、アキ先輩は月。
ハルが動なら、アキ先輩は静。
見た目はどちらも整った顔立ちをしているものの全く似ていないはずなのに、二人はどこかとてもよく似ている様に思えた。
そんなことを呑気に考えている内に、コンビニの袋を下げたハル先輩が部室にやってきた。
「呼び出しといて遅刻か? ハル」
呆れ顔のアキ先輩にハルが「悪い。これ差し入れ」と、青地に白字の文字が印刷してある丸み帯びたボトルが特徴的なスポーツドリンクが三本入った袋から自分の分を取り出すと、残った二つをこちらに差し出す。
「だってさ、シキ。一旦休憩挟むか。スポドリは平気?」
おそらくアキ先輩はわたしにスポーツドリンクが苦手じゃないかどうかを聞いているのだろうと察しがつき即答する。
「あ、はい。大丈夫です」
「ほい」と、袋の中から一つ取り出し、わたしに渡してくれたアキ先輩と買ってきてくれたハルに「アキ先輩、ありがとうございます。ハル先輩、いただきます」とお礼を言って受け取る。
いざハルと顔を合わすと、メッセージ上とは違い彼のことを”ハル”などと気軽に口に出来るはずもなく、わたしはハル先輩と口にした。
「あれ? なんか俺がいない間にアキとシキ、すっかり仲良くなってね?」
何故かどこか嬉しそうなハルが、わたしとアキ先輩に向かって交互に視線を投げる。
「まあ、どっかの誰かが人を呼び出しておいて遅刻してくるから、話す時間が十分あったからな」