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じりじりと照りつける太陽がまだ顔を出すより少し前の時間を狙って、夏休み一日目にも関わらず早朝に家を出たわたしは、旧校舎に取り残される様に未だにポツリと存在している軽音部の部室に居た。
誰も居ない校舎で自由に好きなバンドの曲をポケットの中のスマホで掛け、イヤホン越しに聴こえるギターやベースに合わせてドラムを叩く。
するとボーカルの歌がまるで自分の刻んだリズムに乗る様に弾け始める。
音楽が好き。
ドラムを叩いている間は、わたしは表現者という自由を手に入れるのだから。
スクールカーストも、わたしを縛るものも、全てがそこには何一つ存在しない。
それはいつだって周りの目を気にして生きている中間層であるわたしにとって、唯一自分を解き放ち、何者でもない“無”になれる瞬間だ。
それからお昼時までの間ドラム叩き、口遊みながらタブ譜に書き込み、楽曲を聴き、時より休憩を挟んだりと好きな様に部室で時間を過ごした。
だからこそ音楽に夢中になる余り、わたしはしばらくその“彼”の存在に気付きもしなかった。
ふと何気無く廊下側の窓の方に視線をやり、そこでわたしは目の前の人物と視線が絡み、思わず石化したかの様に固まる。
「——、」
そこにはハルと同じくらいこの学校で有名な、あの“アキ先輩”と思わしき人物が立っていた。
いつの間にか廊下側の窓が開け放たれており、イヤホンをつけた状態でドラムを叩いていたわたしは全く彼に気づいていなかったのだ。
一体いつからそこにいたのか。
そして何故、ここにいるのか聞きたいことはたくさんあるけどわたしの口は重く閉ざすばかりで、そもそも自分からアキ先輩に声など掛けられるわけがない。
「あれ? ハルまだ来てねーの?」
「え? あ、はい」
ナチュラルにアキ先輩との会話が始まり内心かなり焦る。
そもそもハルがまだ来てないってどういう意味なんだろう。
「そっか。じゃあ先に始めてようか」
「え? 始めるって何をですか……?」
「何ってセッション?」
「……セッション?」
まるで初めて聞いた言葉の様に、わたしはアキ先輩の言葉をただただ機械的に繰り返した。
「もしかしてハルから何も聞いてねーの?」
多分、私の表情から何一つ状況把握が出来ていないことを察したのだろう。