ハル先輩の大きな手が何度かわたしの頭をポンポンと撫でるものだから、思考回路は既にショート寸前だった。
「それじゃ行こうか」
と、何事もなかったかの様に先に歩き始めたハル先輩。
フリーズしかけた思考を何とか立て直し、わたしはその背中を追った。
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昇降口を出ると、辺りは薄闇に包まれ思いの外暗かった。
この時間学校に残っているのは、大会に向けて本格的な練習に励む部活動生とその顧問の先生達くらいだろう。
軽音部の様な幽霊部員ばかりが在籍する部は、本来居残って練習する必要はない。
そもそも居残って練習するという概念自体が部員にないのかもしれない。
それは学校全体としての認識でもあるのか、新しく併設された部室棟に他の部が移って行く中、軽音部の部室だけは何故か旧校舎に取り残されたままだった。
これまでこの件について、全く疑問を抱かなかったと言えば嘘になる。
だけど誰にも気兼ねなく練習できる上に、今日みたいなアクシデントに見舞われても誰かに見られる心配がないという点では、旧校舎に部室が取り残されていたことにむしろ感謝の気持ちすら覚えた。
ハル先輩との会話は楽しかったし、もっと話してみたいとも思う。
だけどその一方、平穏を好み日常を壊されたくないという思いから、人前では関わりたくないと言う狡いもう一人の自分が顔を出すのだ。
そもそもハル先輩だって、同士に興味があるだけであって、それがわたしだからと言う理由ではないはずだ。
モテるハル先輩にとって、女の子を送っていく事なんて当たり前の事なのかもしれない。
そうなるとわたしが悩むは必要なんて何一つないんじゃないんだろうか。
そうして居れば、いずれきっとハル先輩の方からわたしとの会話に飽きてその内勝手に離れて行くと思うから。
「(……いつまでもこんな事が続くはずもない。)」
そんな事を考えながら、何の気なしに見つめていたハル先輩の後ろ姿。
すると、ふいにこちらを振り返ったハル先輩と視線が交差する。