「わぁお!」

 思わず感嘆の声が出る。色とりどりの宝石の様なケーキ達が私達を迎えてくれている。お値段三千八百円にはびっくりだけど。うん、いっぱい食べちゃお。元を取らないとね。

「よーし、さっそく取ってこよう」
「うん」

 私はイチゴのケーキめがけてウキウキとビュッフェのテーブルに向かった。あ、あの生クリームいっぱいのムースケーキがおいしそう。あ、でもあっちのロールケーキもふわふわスフレだって。気になる!

「うーん、どれも美味しそう……ってあれ?」

 気が付くと近くにいたかのん君が居ない。辺りを見渡すと、かのん君はお皿にサラダを盛っていた。

「このサラダ、梅の香りだってー。おいしそうだね」
「あ、うん。そうだね」

 私はイチゴケーキに向かっていた足をくるりと回してサラダへと向かった。僅かなりとも私にも女の子の矜持があるのだ。


「ほら、かのん君。サーモンのマリネもあるよ! タンパク質!」
「ほんとだー」

 待っていろ、ケーキめ。こいつを平らげたら端から戴いてやるからな。私もサラダとマリネを皿に盛るとすました顔をして席に着いた。

「うん、美味しい」

 かのん君はサラダを食べて満足そうにしている。ごめん、私はこれは前哨戦に過ぎない。

「じゃ、私あっち行ってくる」

 お待ちかねのケーキをお皿に乗るだけ乗せて私が席に戻ると、かのん君が恨めしそうな顔をしていた。ごめんね……でもスイーツビュッフェに来てケーキ食べない選択とか、あり得ないでしょう。

「すごいケーキ……」
「だってスイーツビュッフェだよ? ケーキ食べないと」
「だって太るもん……」

 悪いけど、実は私食べてもたいして太らない体質なんだよね。会社の同僚の桜井さんには凄いうらやましがられる。

「これから水族館で一杯歩くから大丈夫だよ」
「うーん、そうだけどー」
「じゃあ、これ一口ずつ食べていいから」

 太りたくない、色々食べたい。そんなかのん君の為に私はそう提案した。途端にぱっとかのん君の顔が輝いた。

「真希ちゃんはほんと天使だぁ……」
「大げさだよ……」

 私もその分、まだコンプリートしてない残りのケーキに手を出せるし。ウインウインだよ。

「あ、これ甘酸っぱくて好きかも」
「そう、こっちのピスタチオのもクリーミーで美味しいよ」

 私達はそれぞれお皿の上のケーキの感想を言い合う。こうしてるとまるで女の子と一緒にいるような気がする。けど、この間みたいな男の面もあるわけで。

「……真希ちゃん? どうしたの?」
「いや、その……かのん君といると、なんていうか。うーん」
「なになに」
「お得? みたいな気持ちになる」
「お得?」

 かのん君が首を傾げる。うん、私もうまい言い回しがどうも見つからない。でも、なにか正直に伝えなくちゃって気持ちが沸き上がって。たどたどしくも見つからないなりに自分の言葉を探し出す。

「こういうところにも喜んで来られるし、私の知らないところに連れて行ってくれるし、それに……」
「それに?」
「……あと、かっこいいところもある」

 そういうと、かのん君は不敵に笑って私の頬をつまんだ。

「ちょっ……」

 いくらなんでもホテルのレストランなんですけど。そう思って身体を引こうをすると、そのままクイと指が動いて離れた。

「クリーム、ついてる」

 そういって、真っ赤になっている私を見て……かのん君はおかしそうにくっくっと笑った。

「そうやってまたからかう」
「ごめん、真希ちゃんがカワイイから。さ、そろそろ行こう。水族館がメインでしょ?」

 そうでした。まだご飯を食べただけ。ロマンチック(仮)水族館デートはこれからだ。ああ、でも保つかしら私の心臓。そうして、私達はようやく水族館のゲートへと向かうのだった。