ケンの所属する第五武装偵察中隊は、アメリカが国外に司令部を置く唯一の海外遠征軍、第三海兵遠征軍に属しており、日本国内の各米軍基地の他、ローテーションによりアメリカ本土の基地を訪れる機会も頻繁だった。
そんな状況の中で、カリフォルニアにいるリックと顔を合わせることも何度かあったが、その度にケンは、兄がチームメイトや上官からいかに信頼されているかを目の当たりにするのだった。
二十代半ばで上級曹長の地位にある事実がそれを裏付けていた。孤児院から入隊した兵卒ゆえに、階級というヒエラルキーでは先が見えているが、もし恵まれた環境に育ち士官学校に入学していれば、きっと優秀な成績で卒業し、生来のリーダーシップを発揮して立派な指揮官になっただろう。
ライバルになれると思ったが、やはり兄貴はいつだって俺の遥か先を走っている。
やがてケンは、そんな兄と一緒に訓練に励み、本物の戦闘に参加したいという思いを強めていった。
リックにも相談し、カリフォルニアの第一海兵遠征軍所属、第一武装偵察中隊への転属希望を申し出ると、それは無事に受理された。こちらの基地の人事担当が「リックの弟なら間違いないだろう」と思って、融通を効かせてくれたのかどうかは知らないが、とにかくこれからは兄貴のチームメイトだ。益々張り切るケンに、リックは言った。
「くれぐれも足を引っ張るなよ」
優しく笑うその顔は、上級曹長としてのそれではなく、弟の決断を心から喜ぶ血を分けた兄のものだった。
ケンは、第一武装偵察中隊に転属となった直後、非公式ながら中隊に代々伝わる部隊章のタトゥーを左腕に入れることにした。それは短剣がドクロを上下左右に貫いた意匠で、十字架の中央にドクロが置かれているように見えた。
この部隊章を自分の肉体に刻むことで、隊員たちに迎え入れられて、本当のチームメイトになると言われており、結束力を高める意味もあって、多くの隊員が左腕に彫っている。
それは、その後他の部隊へ配置換えとなったり、除隊して別の人生を歩むことになったとしても、かつて栄光の第一武装偵察中隊員であったことを証明するものであり、彼ら兵士にとっては、その後の人生に於いても誇りとなる帰属意識の象徴だった。
それを聞いたケンは、タトゥーを入れるのに一瞬たりと躊躇わなかった。