神の鉄槌作戦から半月以上が経ったその日、キャンプ・ペンドルトン敷地内の片隅では、作戦で戦死した十名の海兵隊員のための葬儀が、ひっそりと執り行われていた。
国家が公には認めていない極秘作戦における戦死者ゆえに、身近な関係者のみが集まって少人数で行われる簡素な式だった。遺体は未だコロンビアのジャングルに放置されたまま帰国を果たしていないため、ただの形式的な葬儀でしかない。
それは同時に、リック・オルブライトをはじめとする十名の海兵隊員が、その死を確認されぬままに戦死確定の烙印を押されたことを意味した。
形ばかりで何の心もこもっていない葬儀に参列しながら、ケンはそのことを考えていた。ヴァイパーのコードネームで任務についたリーコン隊員たちがあの戦闘で死んだのは、疑いようもない事実だ。ましてや、あのホーネットによる爆撃だ。遺体の回収もまず不可能だろう。
だが海兵隊は、軍は、国家は、それを確認しようと努力したのか?国のために命を捧げた兵士の末路がこんなことでいいはずがない。国だって彼らの死に報いるべく、命を捧げるつもりで動かなければならないはずだ。それなのに、こんな形式だけの葬儀で全て終わりにされようとしている。
優秀なデルタ衛生兵の応急処置により辛うじて一命を取り留めたものの、半身不随となったボブ・ワナメイカーは、未だ病院のベッドから動くことができず、式への参列は叶わなかった。
こんな式ならボブは参列しなくて正解だったとケンは思った。ボブの代理として妻のケイト・ワナメイカーが列席していた。年の離れたおしどり夫婦として知られており、若いケイトの美貌は海兵隊員の中でも有名だったが、今やその顔には深い疲労と絶望の色が浮かんでいる。
ケンは勇気を振り絞ってケイトに声をかけた。
「ケイト、何と言っていいのか・・・」
言葉に詰まるケンを見て、ケイトは無理やり微笑みながら言った。
「ケン、あなたも・・・お兄さんは残念だったわね」
二人の会話はそれきり途絶えた。
ケンが入院中のボブ・ワナメイカーに会いに行く勇気を持つまでには、さらに二ヵ月以上の時間を要した。
葬儀が終わった時、ケンは初老の女性に声をかけられた。
「ケン・オルブライトさんね」
どこかで見覚えのある女性だったが、すぐには思い出せなかった。
「覚えてないかしら」
そこでようやく思い出した。ケンが十八歳になるまで世話になった孤児院の院長シスター・エリスだった。
「この度はご愁傷様です。お兄さんは本当に残念だったわね」
そこから始まったシスター・エリスの話を聞いて、ケンは兄への尊敬の念をますます深めずにはいられなかった。
リックは孤児院を出てから十数年間に渡って、毎年多額の寄付をしていたという。おかげで孤児院は運営に行き詰まることもなく、今も大勢の子供たちが元気に生活を送っている。
長年に渡って院長の責務を担ってきたシスター・エリスは、間もなく勇退する予定でおり、リックには退任式に出席してもらおうと考えていた矢先に、今回の訃報を知らされたという。
ケンは、シスター・エリスのすぐ後ろに女性が控えているのに気がついた。エリスは彼女を紹介した。歳の頃は三十代半ばくらいだろうか。地味ながらも芯の強そうな印象のこの女性の名はアイダ・ブルックスといい、修道院の次期院長だという。