「幼なじみで、同級生で、純愛で、貫いて、結婚して、ずっとずっと一緒に年を重ねて、今も変わらず永遠に愛する人。――この小説と同じように、洋助さんは奥さんを毎日見舞ってたんだって。奥さんが好きな青と白の花束を持って」
きっと、その花束は、今わたしの手の中にあるものと、同じ。
「けど、小説のように同じ時には死ねなかったなって」
「……」
……人通りが少なくて、本当によかった。
「――みーちゃん」
「うっ、ん……」
「下、向いたままでいいよ。僕がずっと、それはそれは丁寧に、手を引いていくから」
そうして百瀬は、とてもとても優しく、わたしの手を自分の手で包んでくれて。
「これで拭くといいよ」
一旦立ち止まり向かい合わされる。借りたままのカーディガンの袖をわたしの腕ごと持っていき、伏せた顔に流れる涙を拭ってくれる。
「……っ、汚れ、ちゃう」
「今さらだろ。それに構わないよ」
隠すことなど無理だったわたしの涙は、自分で拭っても、百瀬に助けてもらっても涸れることはなく。
下を向いたままのわたしは、ゆっくりと百瀬に手を引かれ、ようやく歩き出した。
人前で泣くなんて、久しぶりだった。しかも、こんな情けない涙を流してしまうなんて、わたしは最低だ。
もうすぐ家なのに。部屋に入るまで待ってくれたらよかったのに、コントロールは不可能だった。
ふたりぼっちの世界みたいな空間に響くのは、わたしの嗚咽と鼻水をすする音。百瀬が絶えず大丈夫かと問うてくれる温かな声。それだけだった。