「すごい……素敵」
「気に入ったみたいで良かった」
「本当に私、無償でここに住んでいいの?」
「そういう条件だからね。まずは部屋に行って荷物を置こうか」
凌さんは玄関近くにある階段を指差す。
どうやら私の部屋は2階らしい。
「同室の子とかいるの?」
「全員1人部屋だよ」
話しながら、宙に浮かぶみたいに壁に固定された階段を登っていく。
2階に到着して、階段の目の前の部屋。
そのドアを凌さんが開け放った。
「ここが私の部屋……?」
「インテリアは適当にそろえたけど、もし不満があったら言って」
「不満なんて、滅相もないよ!!」
優に10畳はこえてそうな広々とした部屋に、同じブランドで白を基調として揃えられたインテリアが並ぶ。
女の子だったら、誰もが一度は憧れるような内装だった。
「本当に、こんな立派な部屋に住んでもいいの?」
「うん。一花ちゃんのための部屋だよ」
「わあ……」
まるで夢みたいで、子どもみたいな声が漏れてしまう。
胸を躍らせながら部屋を見渡していると、不意に着信音が響いた。
凌さんがディスプレイを一瞥してから、私に微笑みかける。
「悪いね、少し席を外すよ。先に送ってもらった荷物は部屋の奥に届いているから」
「ありがとう!」
階段を下りていった凌さんを見送ると、今度は向かいの部屋のドアが開く。
部屋から出てきた樹生さんは、私を見るなり眉をひそめてしまう。
わかりやすい嫌悪にめげそうになりつつ、挨拶をする。
「あの、改めてよろしくお願いします!」
「……どんなコネ使ったわけ?」
「え?」
「ま、どーでもいいけど。俺には関わるなよ」
挨拶は興味のない眼差しで一蹴されてしまう。
樹生さんはほとんど目を合わせることなく、横目で一瞥だけして、階段を下りていってしまった。