話しながら、童話に出てきそうな綺麗な庭を抜けて、玄関に辿り着く。
凌さんは扉に手をかけたかと思うと、「そうそう」と思い出したように振り返った。

「言い忘れてたけど、この寮、星並家の人間しか住めないんだよね」

「え?」

一瞬、耳を疑うのと同時に、樹生さんが驚いていた理由も理解する。
私の苗字が『星並』じゃないからきっと、『分家』だとか『愛人の娘』だとか、いろんな可能性を聞いてきていたのだろう。

「それじゃあ私、ここには住めないってこと? もしかして違う寮とか……」

「ううん、一花ちゃんがこれから暮らすのはこの寮で間違いないよ」

「でも私、星並の人じゃないよ?」

「むしろ、俺は一花ちゃんに聞きたいんだけどね。星並とは関係のない一花ちゃんに、なぜかうちの会長が案内を出すよう指示した。その理由に覚えは?」

眼鏡の奥の瞳が、まるで全てを見透かすように私を捕らえる。
少しの嘘も見逃さないような、疑いを持った瞳だ。

「私も案内が届いた時、何かの詐欺かと思ったの。どうして私が選ばれたのか、全然わからなくて……」

「会長と会ったことは?」

「な、ないよ! そんな凄い人と会う機会、ないもん」

星並財閥といえば、星並学園はもちろんのこと、不動産や証券、レストランにホテル、なんでもありの日本を代表する企業だ。
そのトップと会ったことがあれば、いやでも記憶しているに違いない。

凌さんは少し私を見つめた後、ふっと表情を緩めた。

「そっか、わかった。とりあえず中に入ろうか」

あっさりとした返事に拍子抜けしつつ、頷く。
とりあえずは、私は嘘をついていないと信じてくれたらしい。

凌さんは玄関を専用のキーで開けると、エスコートするように私を中へと促した。
一歩踏み込んで、予想を裏切らない内装に思わず感嘆の声を漏らす。

広々とした玄関に、高い天井。
いくつか付いている照明の真ん中ではシーリングファンが堂々と回っている。

全体は木材で整えられていて、どこか優しい自然の香りがした。