私の視線に気が付いて、彼がふっと爽やかな笑顔を浮かべる。
色白の肌に黒い眼鏡、笑うと少し幼く見えた。
「初めまして、一花ちゃん。本当は家まで迎えに行く予定だったんだけど、寝坊しちゃって。悪いね」
「え? 迎え?」
「おい。どういうことだよ? コイツ、どこの家の――」
「驚いてよ、樹生さん。なんとこの子、星並家の人間じゃないんだって」
「え?」
話についていけない中、樹生(いつき)と呼ばれた男の子が驚きに目を見開く。
その反応に、スーツの男性が楽しそうに笑みを深めた。
「星並家じゃないって……それならなんでここに住むんだよ」
「会長直々のご命令♡」
「っ、ふざけてる」
吐き捨てるように言って、樹生さんが立ち上がる。
そして私をもう一度睨むように見て、そのまま立ち去って行ってしまった。
「あの、いいんですか?」
「いいよ。むしろ、樹生さんがひどいこと言ったみたいで、悪いね。あーいう子なだけで悪気はないんで、許してあげて」
「私は全然平気ですけど……怒らせちゃったみたいで心配です」
「優しいね~。はなまる」
まるで子どもに向かってするみたいに、男性は指で輪っかを作って笑う。
嫌味のない笑顔は彼の本心を隠すようで、何を考えているのか少しも読めない。
スマートに私の荷物をさっと手に取ると、彼は自己紹介を始める。
「改めて、俺は星並凌(りょう)。あ、寮とかけてるわけじゃないよ。星並財閥会長の秘書をしてて、この寮にも時々顔を出してるんだ」
「水瀬一花(みなせいちか)です。よろしくお願いします」
「あ、敬語はいらないよ。女子高生の敬語って萌えるけどさ、ほら、もっとラフに喋った方が仲良くなれる気がするデショ」
「仲良くなれるのは嬉しいですけど……いいの?」
「もちろん。ここのメンバーはみんな俺にタメ口だしね」
距離を詰めるのが上手な人だなと思う。
前髪が長かった樹生さんとは違って、短い前髪を立ち上げたスタイルは清潔感がある。