驚いて顔を見あげると、長い前髪から覗く瞳が真っ直ぐに私を捕らえる。
「頼むから、関わるな」
「樹生くん……?」
「俺に、俺たちに、関わるな」
何度か咳をこぼしながら、樹生くんが掠れた声でそう言った。
握られた手がゆっくりと離されて、彼が私から離れていく。
追いかけなきゃと思うのに動けないのは、樹生くんの瞳のせい。
あんなに真っ直ぐに拒絶を示されたら、追いかける事なんてできない。
(なんなの、いったい……)
ぐるぐると混乱する頭に、入学式の開始を告げるチャイムが響く。
けれど動く気にはなれなくて、その場にもう一度しゃがみ込んだ。
――『代替品』
――『人殺し』
――『殴られ慣れてる』
聞かなかったふりなんてできない物騒な言葉たち。
笑い飛ばせないのは、彼らの表情が真剣過ぎたから。
星並家が抱える寂しさは、私が想像するよりずっと根深いのかもしれない。
入学式からそんなことを思い知らされて、私はしばらくその場から動けずにいた。