「それじゃ、俺は自分の教室に戻ろっかな。じゃ、一花ちゃん。また寮でね」

「う、ん……」


頷くほかなくて、気の抜けた返事を落とす。
それと同時に、刺さる教室全員からの鋭い眼差し。

(最悪だ……)

夢の高校生ライフが、ガラガラと崩れていく音がする。
まだ入学式も始まっていないのに。

静まり返った教室の中、全員が私を見つめている。
何か言わなきゃと思うのに、こんな時に限って指先一つ動かない。

(顔、あげられない……)

どんな目でみんなが私を見ているのだろうか。
考えるだけで、足がすくみそうだった。

その時、椅子を引く音が教室に響いて、思わず顔をあげる。

(樹生くん……?)

立ち上がった樹生くんが、一瞬私を見つめて、それから教室を見渡した。


「うちの会長の指示だから。コイツに当たんなよ」


(え……)

短い言葉を残して、樹生くんは教室を出て行く。
けれど、その言葉で敵意の眼差しがスッと引いていくのがわかった。


「樹生さんが言うなら……」

「ま、星並会長の指示なら仕方ないよな」

「納得はいかないけど、樹生さんに言われたら……」


口々に聞こえてくる声をすり抜けて、私も廊下に出る。


「樹生くん!」

「うるさ」

「さっきは、その、ありがとう!」

「お前のためじゃねーよ。胸糞わりーもん見たくなかっただけ」

「それでも嬉しかったの。ありがとう!」


あのままだったらきっと明日から地獄だった。

やっぱり樹生くんは優しい。
そんなことを思っていると、不意に樹生くんが眉を顰めて私の背後を見た。