「道、教えてくれてありがとう。樹生くん。私、道が苦手でね、覚えたつもりなんだけど毎回道がわからなくなるんだよね」

「やっぱバカだろ」


ぶっきらぼうに言って、すたすたと歩く樹生くん。
一生懸命歩幅を合わせるけれど、どんどん早められて、引き離されていく。


「い、意地悪だ……渚くんと一緒……」

「俺がなんだってー?」

「わあ!」


不意に肩を抱かれたかと思うと、至近距離で渚くんがにっこり笑う。
思わず綺麗だと見惚れてしまうのと同時に、昨日のことを思い出して何かされるのではと身構えてしまう。


「おはよー、一花ちゃん。一緒に登校しない?」

「えっ、いいの? もしかして何か企んでたり?」

「疑うなんてひどいなぁ、一花ちゃん。ただ、一緒に話しながら登校したいだけだよ」

「趣味悪いわよ、渚」


声のした方を振り返ると、渚くんとは逆側で楓さんがいた。

(趣味が悪い? 私と登校することが?)

ショックを受けていると、渚くんがニマニマと楽しそうに笑みを深める。


「えー、何がー? 楓ちゃん。俺はただ一花ちゃんと歩きたいだけだよー」

「どうなるかわかってるくせに」

「だからじゃん?」

「何の話??」


問いかけた私に、両サイドから視線が集まる。
かと思えば、渚くんが楓さんの顔を覗き込んだ。


「忠告してあげたら? 一花ちゃんに」

「……私には関係ないし」


楓さんはそれだけ言い残すと、私たちを置いて先に行ってしまう。