「ふう～、これで大体終わりかな！」

最後の段ボールをつぶしながら、部屋を見渡す。
まだまだ見慣れないし、妙に可愛い部屋にむずむずしてしまう。

元々荷物が多くなかったおかげで、荷ほどきには大した時間は要しなかった。

（手を洗ってお風呂の準備しよーっと。でもお風呂の説明、凌さんから聞いてないや）

私がリビングの掃除を始めてしまったせいで、寮の案内は途中で終わってしまっている。
探せばどうにかなるだろうと片付けて部屋を出ると、ふわりとシャンプーの香りと共に樹生さんと目が合った。


「あ、お風呂上がりですか？」


さっきのやりとりを少し思い出して、気まずいながらも声をかける。
私が怯んでしまったら、彼は、彼らは、もう心を開いてくれないような気がした。


「私もお風呂に入りたいんですけど、いま空いてますか？」

「それ、やめろよ」

「え？」

「敬語じゃなくていい。堅苦しい」

「わかった。……そういえばさっき、渚くんにも同じことを言われたよ」

「俺の前でアイツの話はすんな」


鋭くなる眼差しにドキリとする。
従兄弟な２人の共通点を見つけたつもりで言ったけれど、不快にさせてしまったみたいだ。

（やっぱり、あんまり仲良くないのかな）

みんなで食事することを樹生くんも渚くんも嫌がっていた。
理由を尋ねようか迷って、でも尋ねてまた機嫌を損ねたらどうしようと考え込む。

すると、樹生くんが私の部屋をチラリと一瞥した。


「まだ片付いてねーのかよ」

「うん。あともう少しなんだけどね」

「リビングなんか片付けてっからだろ。まずは自分のことやれよ、バカだな」


タオルで髪を拭きながら呆れたように言われた言葉に、顔をあげた。


「樹生くん、優しいね」

「は？」

「今の、私のこと気遣ってくれたんだよね」


まるで当たり前のことのように、自分を優先するように言ってくれた。
言葉は乱暴で分かりづらいし、もしかしたら私の前向き過ぎる捉え方かもしれないけれど、今の私には樹生くんの言葉がすごく嬉しかった。


「……お前、変だよ」

「え？　そうかな」


樹生くんが少し気まずそうに視線を逸らす。
そのまま私に背を向けると、「風呂、空いてる」と言って自分の部屋へと戻ってしまった。


「ありがとう」


私の声が聞こえたか分からない。
目の前には閉められた扉。

今日、何度も見た光景だけど、その中で１番優しい気持ちになれた。