空っぽになった8畳間を見渡して、窓を開け放つ。
3月の涼やかな風が部屋を巡り、私がいた思い出をさらっていくようだ。

今日、私は7年お世話になったこの家を出て行く。
8歳の頃、両親を失った私を快く引き取ってくれた伯母夫婦。

中学までは義務教育だけれど、高校に行きたいという私のわがままに彼女たちを突き合わせるわけにはいかない。
高校に進学するなら全寮制の特待生枠だとずっと前から決めていた。

家を出て1人で暮らすのはやっぱり寂しくて不安だけど、楽しみな気持ちの方が大きかった。
それに私が入学する学園は、普通では入ることの叶わなかった場所。

そんなところに自分が4月から通えるのだと思うと、とんでもない幸せ者だと思えた。

すでに大きな荷物は寮へと送ってある。
残った荷物をまとめて部屋を出ようとしたとき、先にノックの音がした。
ドアを開くと、寂し気な表情をした伯母――もとい、今の私の母が空っぽの部屋を見渡す。


「本当に出て行っちゃうのね。寂しくなるわ……」

「今まで本当にありがとう、お母さん。お世話になりました」

「そんなこと言われたら、余計に寂しくなるじゃない」


既にその声は掠れている。
私も寂しくなってきて、それを誤魔化すようにぎゅっと母に抱き着いた。


「大好きだよ、お母さん。離れてても、連絡するからね。それに長期休みの時には帰ってくるから」

「私も大好きよ、一花。体には気を付けて、何かあったらすぐに帰ってきていいからね」

「うん」


短い抱擁を終えて、まだ寂しげにする母を安心させるように微笑んだ。
それから本当の両親の仏壇に挨拶を済ませて、家を出る。


「行ってきます」

「行ってらっしゃい」


空は晴れ渡っていて、門出にはちょうどいい天気だった。
太陽って不思議で、ただ暖かな日差しに照らされるだけで、寂しさや不安で少しだけ憂鬱になりそうな気持ちも晴れていく。


振り返ると、まだ手を振り続けている母の姿が見える。
角を曲がる前にもう一度大きく手を振って、今度こそ別れを告げた。